Rehapoli Evidence Review. 05: オンライン介護、その効果を探る(2)
1)「心不全」と生活期リハビリテーション
滋賀医科大学の小島等は、高齢化の進展により、慢性心不全などの内部障害を抱える高齢者の増加が予測されることから、その在宅療養の環境整備の重要性を指摘しつつ、以下のように論じています。
「医療施設での治療を終えて在宅で療養する高齢者の中には、慢性の心不全(略)などの内部障害を持ちながら、通所介護、通所リハビリ施設を利用する方も今後ますます増加していくことが考えられる」
心不全等の疾患では、機能訓練(運動療法)が身体機能の改善をもたらし、これにより心臓の負担が軽減されることで、予後の改善やQOLの向上に効果があると考えられています。
そのような点で、機能訓練(運動療法)を提供する通所介護施設、デイサービスセンターは慢性心不全などを患う高齢者の在宅療養を支える役割も担っているといえるでしょう。
では、このような心臓病を抱える高齢者へのオンライン・遠隔による生活期リハビリテーションの提供は、人手不足に直面する医療・介護業界において、アウトカムの期待できる施策となり得るのでしょうか。
このような問いへのヒントを探る観点から今回のRehapoli Evidence Reviewでは、慢性心不全の患者に対して、オンライン・遠隔により、医療リハビリテーションを提供した際の効果を検証した論文を取り上げます。
2)慢性心不全とオンライン・遠隔リハビリテーション、その効果の検証
豪州クイーンズランド大学のRita Hwang等の研究では、慢性心不全(心臓に負担がかかり続けていることで心臓の機能が低下している状態)の患者に対して、遠隔リハビリテーションが従来の対面型のリハビリテーションプログラムと同等の効果があるかを検証するために2グループの比較試験(RCT)を行いました。
この研究では、18歳以上の慢性心不全の患者53名が対象となり、「遠隔リハビリグループ」24名、「対面リハビリグループ」29名に分けられました。対象者の平均年齢は67歳、男性が75%を占めました。運動が危険な症状を有する方や施設で生活されている方、病院から車で1時間以上の遠方の方、介助者がいない方は対象から除外されました。
2グループともにリハビリテーションの内容は統一されており、理学療法士らの指導の下、1回60分の運動プログラムを週に2回、12週間に渡って行いました。運動プログラムは、ウォーミングアップ10分、有酸素運動や筋力トレーニング40分、クールダウン10分で構成されており、「かなり楽に感じる」運動から始め、徐々に「やや大変」な運動にレベルをアップしていきました。また、このような「運動プログラム」に加えて、日常生活で気を付けるべきことについての情報提供や自主トレーニングの指導などの「教育プログラム」も提供されました。
「遠隔リハビリグループ」ではパソコンを使用し、最大4人のグループでビデオ通話を使用しながら運動プログラムを提供しました。「対面リハビリグループ」は病院で実施しました。
プログラムの効果を検証するために、スタート時と12週間後、24週間後に「6分間歩行テスト - 6分間で歩くことのできた距離を測定する検査 - 」を行い、2つのグループ間で比較しました。
その結果、「遠隔リハビリグループ」は「対面リハビリグループ」に比べて、12週間後の時点で平均15mの向上、24週間後の時点で平均2mの改善が確認されました。
この結果を統計的な手法により検証したところ、「遠隔リハビリプログラム」が「外来リハビリプログラム」に劣らない効果があることが明らかとなりました。ただし、その効果が24週間後の時点まで維持できているかどうかまでは確認できませんでした。
また、今回の研究では「遠隔リハビリグループ」のほうが「対面リハビリグループ」よりもプログラムの参加率が高いという結果が得られました。
プログラムに80%以上参加した患者の割合が、「遠隔リハビリグループ」では71%に達したのに対して、「外来リハビリグループ」では30%にとどまりました。
今回の研究も多くの制約の中で行われており、① 対象者が限定されていたこと、②2グループの人数にばらつきがあったこと、③ 自主トレーニングの実施状況が分からないこと、などを踏まえて、さらなる検討が必要な部分が残されています。
しかし、「慢性心不全」の患者に対する遠隔リハビリテーションの提供により、従来の対面型のリハビリテーションと同等の効果を得ることができる可能性を強く示唆するものでした。同時に、遠隔リハビリテーションの参加率の高さは、患者に対し、リハビリへの参加と継続を促す上で有効であることを示唆しています。
これらの結果は、慢性心不全の患者に対するオンライン・遠隔による「生活期リハビリテーション」の有効性について検討する意義を感じさせるものとも言えるでしょう。
東京慈恵会医科大学の山田 尚基 講師(日本リハビリテーション医学会専門医・指導医)は、この研究の結果について、遠隔リハビリへの参加率の高さに着目し、「時間的な制約の少ない遠隔リハビリの方が参加しやすかった、ということかもしれないが、心臓リハビリは患者さんが楽しめないと継続が難しいという印象もある。患者さんにとって対面よりも心理的に会話が成り立ちやすく、『一緒に頑張ろう』という連帯感が生じやすい環境なのではないか」と指摘するとともに、「今後は患者の合併症(糖尿病や肝障害など)や認知面、心理面の状態等の特徴が一致するグループ間の比較を行う研究を蓄積していくとともに、医療現場における将来的な導入を考えるなら、患者さんにとって『楽しくやる気の出る』遠隔リハビリプログラムを開発することが非常に重要だ」と社会実装を見据えたさらなる研究の深まりに期待を寄せています。
参考文献:
・ 小島弓佳, 平岩康之ほか「通所系介護サービスにおける呼吸循環器疾患等
を有する要介護者の対応状況に関する現状調査」滋賀県立リハビリテーシ
ョンセンター, 2015
・ Rita Hwang, Jared Bruning et al. “Home-based telerehabilitation is not inferior to a centre-based program in patients with chronic heart failure: a
randomised trial” Journal of Physiotherapy, Volume 63, Issue 2, April 2017,
Pages 101-107
監修:山田 尚基(東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション医学講座 講師)
執筆:松田 直佳(理学療法士)・村田 章吾(社会福祉士)