Rehapoli Evidence Review 01:口腔機能の回復に必要な視点(1)
はじめに:Rehapoli Evidence Review とは
「買い物にいきたい」、「カフェでコーヒーが飲みたい」、「友人とグランドゴルフを楽しみしたい」、「新たな習い事に挑戦したい」・・・
年を重ねても、自分の願いを自分で叶えることのできる生活を続けたい。
家族に迷惑をかけることなく、自分の力で、日々を穏やかに過ごしたい。
多くの年を重ねた方々が、そのような願いを抱いて生活をしています。
「エビデンスに基づく自立支援介護」の確立と普及は、このような高齢者の方々の願いを叶えることにこそ、その目的があります。
では、私たちの社会はどのような介護サービスをデザインし、普及を図っていくべきなのでしょうか。
その答えを探ることを目的に、Rehapoliでは、介護サービスの効果の検証をテーマとした国内外の論文と、そこにおいて示されたデータを簡潔に整理し、皆さんにお届けをして参ります。
Rehapoli 編集部では、この「Rehapoli Evidence Review」における発信が、健康寿命の延伸に寄与する確かな介護のあり方を、読者の皆さんと一緒に考えていくきっかけになればと願っています。
口腔機能の回復に寄与するプログラムを探る(1)
口腔機能の低下は、人々の健康に負の影響を与え、身体機能や認知機能の低下をもたらす要因になると考えられています。
広島大学の三好等の研究は、口腔機能トレーニングを含む運動プログラムへの継続的な参加が、口腔機能の改善に寄与することを示唆しています。
この研究では、2019年5月から9月の時点で、広島県竹原地域での運動プログラムに参加していた、要支援・要介護の認定を受けていない65歳以上の高齢女性205名を対象に横断的調査(一時点における調査)を行いました。
運動プログラムは毎週の ① 歯科衛生士による10分の口腔体操、② 理学療法士による40分の運動療法で構成されていました。
年齢や体格、疾患などの患者特性を合わせた上で、運動プログラムの参加歴がそれぞれ3年、4年、5年以上の参加者とそれ未満の対象者を比較しました。
その結果は、運動プログラム参加歴が5年以上の対象者は、5年未満の対象者と比べて、「握力」や「舌」の運動機能において良好な値を示すものでした。
この調査は、長期(5年以上)の口腔体操を含む運動プログラムへの参加と、高齢者の身体機能・口腔機能との関連を示唆しています。一方で、バランス機能や下肢筋力を示す指標については、肯定的なインパクトの確認には至っておりません。
この研究では「週1回、10分の口腔運動、40分の運動療法」により構成されるプログラムが対象とされていましたが、さらなる身体機能の改善を目指すには、より集中的な運動プログラムが必要かもしれません。
実際に、週3回から4回程度の運動プログラムが、バランスや下肢筋力などの下肢機能を高めたと報告している研究も確認されています。
今回の研究は「週1回 10分」程度の短時間の口腔体操であっても、定期的にこれを行うことが、口腔機能の改善に寄与することを示唆しています。定期的かつ短時間の口腔運動プログラムの普及を図ることが、フレイル予防に一定のインパクトを有する可能性があると言えます。
リハビリテーション領域の介護研究に取り組む静岡社会健康医学大学院大学の藤本 修平 准教授はこの研究の結果について、「近年、様々な疾患と口腔機能の関連性が検証され、また運動を行うにも栄養が前提であるというコンセンサスも得られている。『食べること』は心身にとって非常に重要なポイントだが、在宅・介護現場の中には、身体活動のみへの配慮に重点が置かれていることも少なくない。本研究のように、口腔機能への着眼を通して、在宅・介護現場などでも適用できるプログラムの知見が増えることが望まれる。」とエビデンスに基づいた口腔機能訓練の重要性について指摘しています。
参考文献
・「口腔機能の健康への影響」(厚生労働省Webサイト)
・Miyoshi S, Saito A, Shigeishi H, Ohta K, Sugiyama M. Relationship between oral and physical function and length of participation in long-term care prevention programs in community-dwelling older Japanese women. Eur Geriatr Med. 2021 Apr;12(2):387-395.
・Fragala MS, Cadore EL, Dorgo S, Izquierdo M, Kraemer WJ, Peterson MD, Ryan ED. Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Association. J Strength Cond Res. 2019 Aug;33(8):2019-2052. ほか
監修:藤本修平(静岡社会健康医学大学院大学 准教授・理学療法士)
執筆:山田莞爾(理学療法士)・村田章吾(社会福祉士)